私は長期の臨床実践の中で、脾胃病の治療に関する経験を蓄積してきた。以下に、脾胃病に対する認識と治療経験をまとめた。 一、脾胃の生理的特徴は「昇」と「降」にある 脾胃は後天の根本であり、気血の生化源である。その機能的特徴は「昇」と「降」に集中している。脾は運化を司り、精微を布化して清を昇し、胃は受納を司り、水穀を腐熟して濁を降ろす。脾が健運すれば清が昇し、胃が和降すれば濁が降る。脾が健運しなければ清気が昇せず、胃が和降しなければ濁気が降らず、逆に上昇する。脾は陰臓、胃は陽腑であり、互いに表裏関係にあり、一昇一降、昇降相因する。これは水穀の腐熟、精微の布化だけでなく、人体全体の陰陽・気血・水火の昇降にも関わるため、人体の昇降の枢要となる。脾胃の昇降は互いに因果関係にあり、胃が和降しなければ脾の昇が行われず、脾の昇が異常になれば胃も降らなくなる。正如喻嘉言が言ったように、「中脘の気旺すれば、水穀の清気が上昇して百脈に灌輸され、水穀の濁気が下垂して大小腸から便尿となって消滅する」。脾の清陽が上昇し、胃の濁陰が下降すれば、気血の生化に源があり、出入が順序ある。運ばず昇さなければ生化の端がなく、降らなければ伝化の由来がない。滞留して疾患となる。 二、脾胃病証は「湿」と「滞」に突出する 脾胃病証は多様だが、湿留気滞は病機の共通点である。脾胃は倉廩の官であり、水穀の海である。何物も受け入れるため、邪気は容易に襲い、そこに盤踞する。脾胃は昇降が失調し、気機が塞がれ、水は湿となり、穀は滞となる。湿阻、食積、痰結、気滞、血瘀、火鬱などが相まって生じる。邪正交雑、気道閉塞、中焦に鬱滞する。これが実滞である。脾胃が虚弱で運化が司れない場合、昇降が乱れ、清濁が混ざり、湿・滞が中から生じる。所謂「因虚致実、虚中挟滞」である。正如《素問・調経論》に云う、「有所労倦、形気衰少、穀気不盛、上焦不行、下脘不通……」。湿・滞が病機の要であるため、脾胃病の治療においては、或いは温、或いは清、或いは補、或いは瀉し、常に滞を行い、湿を利し、昇降を復するという総旨となる。 三、脾胃病は調理が重視され、肺気の宣通も兼ねる 脾胃病変は多く湿・滞を伴い、脾病は多く湿で、湿に困りやすい。胃病は多く熱で、熱に壅りやすい。これらはすべて気機の昇降失宜によるものである。そのため、脾胃病変は大補大瀉ではなく、調理が貴重である。根本を探求し、気機の失调原因を審査し、原因に応じて論治し、脾胃の昇降を正常に戻し、湿滞を消し、昇降を和らげ、諸症を除く。調理脾胃の際には、肺気の宣通も兼ねるべきである。脾は水穀を運化し、化穀は沤のように、肺は精微を布散し、輸布は霧のように。脾は肺の協力を得て、水穀精微の布散を完成する。正如《素問・経脈別論》に云う、「脾は散精、上歸于肺、通調水道、下輸膀胱」。肺は宣発肃降を司り、脾胃は清を昇し、濁を降ろす。同く気機の昇降を司る。よって、脾を治すときは肺を理することを忘れてはならず、肺を治すときは必ず脾を究めるべきである。臨床用药では、健脾和胃の薬品に、適宜宣肺解鬱の薬品を加えるべきである。杏仁、栝楼、麻黄などが該当する。葉天士は『臨証指南医案』で杏仁を用いて肺気を宣通させ、湿阻を運ばせ、宣肺利水健脾の先駆けとなった。 四、治療経験 1.脾湿外感:風は百病の長であり、諸邪を携えて人を襲う。風邪が湿を帯びて外感する場合、症状:発熱悪寒、脘腹痞満、悪心嘔吐、頭暈頭脹、頭重如裹、項背拘急不快。平胃散に杏仁、葛根、藿香、桂枝、羌活、防風などを加えて、辛散風邪、和胃湿を散らす。表の風邪を祛し、胃中の湿濁を散らす。胃肠型感冒に適する。 2.寒湿困脾:寒湿はともに陰邪であり、脾陽を困らせ、気機を阻害する。症状:背寒怕冷、脘腹満闷、納呆便溏、悪心欲吐など。五苓散と平胃散、杏仁、麻黄、藿香、草蔻仁、生姜を用いる。湿除けの力を強化し、脾の働きを助ける。寒が湿より強い場合は、草蔻仁を砂仁に変え、桂枝、高良姜などを加えて温胃散寒する。湿が寒より強い場合は、蒼術を加える。 3.脾胃湿熱:脾胃湿熱の症状は多様。胃脘疼痛、嘈雜灼熱、口干不欲飲、飢而不欲食、小便色黄、大便不暢は脾胃湿熱の弁証要点。この症の治療は、清熱を妨げずに利湿をし、利湿を助けて熱を助けてはならないという原則に従う。三仁湯加減を用いる。冬瓜皮、茵陳を加えて湿を祛し、熱を清め、脾胃を安和させる。湿熱下痢には葛根芩連湯加減を用いる。黄疸がある場合は、茵陳五苓散加減を用いる。 4.肝鬱脾湿:脾胃の昇降は肝気の疏泄と密接な関係がある。情志抑鬱で肝気鬱結し、疏泄できないと、横犯脾胃し、脾胃の昇降運化が失調し、湿が内生し、中焦に阻滞して脘腹胀満、両側脇痛、胸悶嗳気、長嘆き、大便溏泄、食欲不振、四肢困重、情志不快時に加重する。治療は疏肝解鬱、健脾燥湿。胃気不降が偏る場合は柴胡疏肝散加減。脾虚が偏る場合は逍遥散と平胃散を合方。肝脾不調の腹痛泄瀉には痛瀉要方を主方とする。茵陳、香附、青皮、藿香、草蔻仁などを加えて鬱を解き、湿を化す。肝が疏泄され、脾湿が運ばれ、昇降が調和し、湿濁が祛除される。 5.脾胃虚弱:素体虚弱で、食生活不節により脾胃が損傷され、運化无力。気短乏力、顔色淡白、納呆便溏などの気虚症状が現れる。陽虚がある場合は、胃脘部疼痛、温を好む、按を好む、形寒肢冷、四肢困倦、神疲納呆、寒に遇って加重、熱に遇って軽減、下利清谷など。脾気虚が長期にわたって治らないと、中気下陷し、脱肛、崩漏などが生じる。気虚には六君子湯で健脾益気。陳皮、半夏は補いながらも壅らず、気を補う。脾胃虚寒が偏る場合は、温中散寒。良附丸、理中湯、黄芪健中湯加減。中気下陷の場合は、益気昇提、昇陽挙陷。補中益気湯加減。 6.脾虚挟湿:脾虚挟湿の症は本虚標実であり、扶正祛邪、標本兼顧が必要。党参、白朮、茯苓、藿香、草蔻仁、厚朴、枳殻、杏仁、麻黄を基底とした方薬を使用。党参は性平、味甘、脾・肺経に入る。補中益気などの効能を持つ。白朮は甘苦微温、専ら脾胃二経に入る。健脾和胃、燥湿利水の効能を持つ。特に健脾益気に偏る。茯苓は健脾利湿、和胃安神。白朮と伍用することで、健脾燥湿の力を助ける。藿香は香辛微温、芳香化湿、理気和中。草蔻仁と同用して祛邪扶正。杏仁、麻黄は苦温、肺経に入る。上焦肺気を啓ぎ、湿阻を運ばせる。厚朴、枳殻は理気化痰、清を昇し、濁を降ろす。以上の諸薬を合用し、健脾燥湿、宣肺化痰の効果を持つ。各種脾湿による浮腫、下痢、咳喘に使用。脾虚挟湿の者は、寒熱を問わず加減運用可能。 五、病案例示: 1.胃脘痛案:张某、男、45歳。胃脘膨満痛、胸脇満闷、善太息、呃逆頻作、食欲不振、四肢困重、嗜睡、大便通而不爽、舌質淡、苔白厚膩、脈沉弦滑。証属肝鬱脾湿。治療:疏肝和胃、健脾利湿。方用:杏仁10g、栝楼皮12g、柴胡6g、香附9g、茯苓20g、藿香12g、草蔻仁9g、厚朴9g、枳殻9g、白芍12g、甘草6g、半夏6g。3剤服用後、胃脘膨満痛は徐々に減少、大便は通常、食欲増加、舌苔厚膩は徐々に退去。継続4剤で完治。 胃脘痛は情志不遂、労働、飢飽、寒涼無常により脾胃気機不暢となり、病因は多様だが病機は胃気阻滞、不通則痛である。胃脘膨満痛、情志不遂時に発作する特徴から、肝を論じることが多い。故に方中柴胡、香附で肝気を疏泄。藿香、草蔻仁は芳香化湿、健脾和胃。茯苓は淡滲利湿。杏仁、栝楼は肺気を宣通させ、湿阻を運ばせる。白芍、甘草は緩急止痛。諸薬合用し、疏肝和胃、健脾燥湿の効果を発揮する。 2.湿熱口瘡案:李某、男、50歳。口瘡反復発作3年以上。寒涼清瀉薬を使用すると口瘡は治るが、大便稀溏がさらに悪化。温熱補虚に切り替えると大便稀溏は改善するが、口瘡は劇烈に悪化、痛み難忍、食事が不可能。発作は疲労に関連。現在の症状:頭痛、口乾不欲飲、大便稀溏、四肢倦怠、舌淡苔黄厚、脈滑数。口腔粘膜充血、舌辺尖に潰瘍2個、周囲紅腫。証属脾胃湿熱、火毒熏蒸。清熱解毒薬を投与:杏仁10g、薏苡仁15g、草蔻仁6g、茯苓15g、蒲公英15g、防風9g、山薬20g、藿香10g、竹葉6g、茵陳10g、生甘草6g。4剤服用後、口腔潰瘍は治癒、痛み消失、大便正常。継続原方、1週間で停止。随訪1年、再発なし。 口瘡は胃熱燻灼または陰虚火旺によることが多い。しかし、本症は反復発作、繰り返し治らない。腹張り便溏、口乾不欲飲の脾虚湿盛の兆候を伴い、補うも得ず、瀉くも得ず。全面分析し、脾胃湿熱、胃熱燻灼の口瘡と弁証。飲食労倦により脾胃が損傷され、運化失常、湿濁内生。湿熱が脾の苗竅を燻灼するため、口唇糜爛、痛み難忍。方中茵陳、竹葉で湿熱を清利。杏仁で上焦肺気を啓ぎ、湿阻を運ばせる。茯苓、薏苡仁、山薬で健脾利湿。藿香、草蔻仁で芳香化湿。蒲公英、防風、生甘草で清熱解毒。利湿を妨げず、熱清湿利、諸症自愈。効果速やか。 3.風湿外感案:宋某、男、60歳。3日間頭昏頭悶、頭重如裹、全身乏困、四肢無力、背部悪寒、微熱、悪心嘔吐、食欲不振、咳嗽、噴嚏。舌苔白膩、脈浮緩。証属外感風湿。治療:祛風解表、芳香化湿。方用:杏仁10g、麻黄6g、藿香10g、草蔻仁10g、桂枝6g、赤芍9g、茯苓10g、葛根9g、生姜3片、大棗4枚。2剤服用後、諸症軽減。四肢困重、不飢不食が残存。藿香正気丸2箱を用いて後処置。 外感病は風に起因する。風寒、風熱、風湿の区分がある。患者は素体肥満、脾湿過盛。新感風邪により風湿合邪の外感となる。治療は外散風邪に桂枝、麻黄、葛根、藿香を用い、内祛湿に草蔻仁、茯苓を配合。さらに杏仁で肺気を宣通させ、湿阻を運ばせる。共に祛風解表、健脾燥湿の効果を発揮する。
|