理中湯は張仲景『傷寒論』に記載され、人参・乾姜・白朮・炙甘草からなる。本方では辛熱の乾姜を君薬として用い、中焦の脾胃を温め、里寒を祛する。人参は元気を大補し、運化を助けて升降を正す臣薬として、気を補い脾を益する。白朮は脾を健にし湿を燥し、炙甘草は気を益し、中を和し土を補う。諸薬が配合され、中焦の寒は辛熱で去り、中焦の虚は甘温で復する。清陽は上昇し、濁陰は下降し、運化が健になり、中焦が治る。ゆえに「理中」と呼ばれる。中焦虚寒により生じる陽虚出血・小児慢驚・胸痹・病後喜唾・嘔吐・下痢・胃脘痛などに用いられる。本方は多病に適用されるが、その本質は常に中焦虚寒であるため、異病同治が可能である。一、小児慢驚風単某、男、2歳6か月、2000年7月15日初診。母親代訴:過去2か月間、毎日3~4回の下痢があり、便は清稀で臭くなく、量は中程度で、卵の様な形状で、消化されていない食物残渣を含む。食欲不振、偶発的なけいれん。患者の顔色は白く、精神は萎靡し、四肢は冷たく、腹部は柔らかくわずかに膨張。舌は淡く、苔は薄白、脈は沈、指紋は淡紫で命門に近い。診断:小児慢驚風、証候は脾陽虚衰。治療:温中祛寒、健運脾陽。処方:理中湯原方、水煎服、日1回。薬後は温粥を摂取するよう指示。2日後再診:精神状態が明確に改善し、下痢回数は毎日1~2回に減少、けいれん停止、食欲増進。原方を3日分継続投与し、諸症状が完全に消失した。按:『小児薬証直決』曰、「小児慢驚、病後または吐瀉、または薬餌傷損脾胃、…、此は脾虚生風無陽之証也」と。本症例は日常的な食事不節・育児不当により脾胃を損傷し、脾陽が大虚となり、下痢・けいれんなどの諸症状が生じた。故に理中湯で脾陽を温運し、土が実れば木が乗じられない。諸症状は自然に消失する。二、体虚感冒胡某、女、52歳、幹部。患者は5年以上にわたり繰り返し感冒を繰り返し、今回は寒冷に曝露して参蘇飲を服用しても効果が不十分。当院を受診。診察:体型は痩せ、顔色は白く、頭痛・鼻塞、冷え・風を嫌い、身体酸痛、心の不快感、時折嘔吐欲、食欲不振、舌質は淡く、苔は薄白、脈は沈遲而弱。脈症を統合すると、証候は脾胃虚弱・寒邪外襲。治療:温中健脾、和営解表。理中湯に桂枝6g・葛根15g・白芍15g・炙甘草5gを加えた。3日分服用後、諸症状は著しく軽減したが、まだ腹張り・食欲不振が残存。原方に枳殻10g・木香6gを加え、3日分服用で完治した。按:『傷寒論』第163条曰、「太陽病、外症未除、而數下之、遂協熱而利、利下不止、心中痞、表里不解者、桂枝人参湯主之」。桂枝人参湯は理中湯に桂枝を加えたもので、太陽病の誤下による虚寒下痢のために設けられた。本症例は誤下ではないが、中陽が素来虚で、外寒を感受したため、表裏兼症であり、里症が主である。故にこの方を用いて表裏双解し、効果は信頼できる。三、泛吐涎沫秦某、女、42歳、農民、1999年6月2日初診。胃潰瘍出血手術後の大量清水痰涎の泛吐を訴え、食納不良・疲労感が3年続く。中西薬治療で効果が不十分であったため、当院を受診。診察:顔色は萎黄で無華、精神萎靡、四肢冷、腹部柔らかくわずかに膨張。舌は淡白、苔は薄白、脈は沈細無力。まさに脾気虚寒、治療は温中補脾益気・津液を攝り止唾。処方:理中湯に附子(先煎40分)6g・益智仁9g・烏薬6gを加えた。3日分服用後、清水痰涎の泛吐は停止し、食事が増加、精神も改善。原方を7日分継続投与し、諸症状消失、食事正常、病は治癒。1年間の追跡観察で再発なし。按:脾は痰涎を主とするが、腎は唾液を主とする。脾気虚寒により津液を攝れず、津液が口に上溢して泛吐痰涎となる。本症例は脾腎両治し、理中湯で脾陽を温め、附子・益智仁・烏薬で腎を温め津液を攝り止唾する。脾腎の陽が旺すれば、水湿の運化が行われ、津液が口に上溢しなくなる。四、胸痹譚某、女、50歳、1998年3月5日受診。自覚:胸痛・胸闷・心慌、毎日3~5回発作。発作時に息切れ・汗出を伴い、動くと悪化。硝酸グリセリンを内服または安静で緩和。素体は肥満、顔色白く無華、体寒肢冷、神疲・食欲不振。胸痛が背に徹する場合もあり、間歇的に心悸。西洋医学で冠脈造影にて「狭心症」と診断。舌苔は白膩、脈は沈遲。証候は脾胃虚寒・胸陽不振。治療:脾胃を健にし、胸陽を振奮し、血絡を通じさせる。処方:理中湯に桂枝6g・枳実10g・全栝楼30g・薤白15g・半夏6gを加えた。1週間連用後、胸痛消失、他の症状も改善した。按:『医門法律』曰、「胸痹總因陽虛、故陰得乘之」。患者は肥満で素体陽気不足、胸陽が運ばず、寒邪が陽位に乗じて気機を痹阻し、胸痹を生じる。本症例は根本から治療し、理中湯で温中健脾、陽気を培う。桂心・栝楼・薤白を用いて辛温で陽を通じ、胸を広げ気を理する。標本兼治により、良効を得た。五、再発性アフタ口内炎施某、女、38歳、1999年6月5日初診。5年間にわたり繰り返し口腔潰瘍を発症し、労働時に発作する。西洋医学で再発性アフタ口内炎と診断。中西薬および外用錫類散を用いたが効果が不十分。診察:上下唇内側・舌縁・舌先に大小異なる潰瘍あり、大は大豆サイズ、小は米粒サイズ。創面は凹陷、灰白色、周囲は淡紅でわずかに隆起。顔色は萎黄、疲労感、食欲不振・腹張り、舌質は淡胖、歯痕明瞭、苔は薄白、脈は沈細。証候は脾腎陽虚・寒湿上泛。治療:温陽益気、健脾利湿。処方:理中湯に附子6g・竹葉15g・白芍10gを加えた。3日分服用後、腹張りが改善し、食事が増加、口腔潰瘍も改善。上方に桂枝を加えて陽を通じ寒を散らす力を強化し、さらに3日分服用で潰瘍が治癒、全身症状も著しく改善。附子理中丸を1か月間継続服用で善後を促し、1年間の追跡で再発なし。按:本患者は長期間脾の健運が失われ、寒湿が内生し、湿毒が上泛する。脾虚が腎に及ぶことで、脾腎陽虚となり、虚陽が上浮して再発性口腔潰瘍となる。朱丹溪曰、「口瘡、涼薬を服しても治らない者、中焦土虚、且つ食せず、相火衝上無制。理中湯を用いる」。李時珍も曰、「口瘡、長期間涼薬を服用しても治らない者、理中湯に附子を加えて反治し、官桂を合用する」。本方では製附子で脾腎を温補し、火を帰源に導く。全方で益気温陽健脾、散寒解毒し、上泛する寒湿を伏せ、口瘡を治癒する。
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